司法・人権

冤罪はなぜ起きるのか|有罪率99.9%の構造と、無罪を勝ち取った男性の記録

「日本の刑事裁判の有罪率は99.9%」——この数字を聞いたことがある人は多いと思います。ドラマのタイトルにもなりました。しかし、この99.9%が何を分母にした数字なのかを正確に説明できる人は、そう多くありません。

そして、その数字の向こう側には、実際に無実の罪を着せられ、それでも闘って無罪を勝ち取った人がいます。チエヒロは、その一人に取材しました。この記事では、まず冤罪が生まれる構造を統計と制度から整理し、最後に当事者の証言へつなぎます。

有罪率99.9%とは、何の数字なのか

まず押さえておくべきは、99.9%は「起訴されたあと」の数字だということです。警察が捜査した事件のすべてが裁判になるわけではありません。

2024年の通常第一審事件を見ると、終局総人員5万290人のうち、有罪は4万8004人。無罪はわずか92人でした。割合にすると無罪は0.2%です。略式起訴を含めた全体で見れば、無罪の割合はさらに小さくなります。

一方で、検察が起訴しなかった割合——不起訴率は約68%にのぼります。つまり検察は、送致された事件の3分の2以上を裁判にかけていません。

なぜ無罪判決はこれほど少ないのか

この2つの数字を並べると、構造が見えてきます。検察が「確実に有罪にできる事件だけを起訴する」という実務慣行が、99.9%という数字を作っているのです。

これは「精密司法」と呼ばれ、法務省は制度の正確さの表れだと説明しています。捜査段階で慎重に選別しているのだから、起訴された事件はほぼ確実に有罪である——という理屈です。

ただし、この構造には裏側があります。一度起訴されてしまえば、無罪を勝ち取ることは統計上きわめて難しいということです。0.2%という数字は、起訴された時点で有罪がほぼ既定路線であることを意味します。そして起訴するかどうかを決めるのは、検察です。

「人質司法」とは何か

冤罪を語るうえで避けて通れないのが、人質司法と呼ばれる問題です。

これは、容疑を否認したり黙秘したりする被疑者・被告人の身柄拘束を長引かせ、事実上、自白を促す構造を指します。数字にも表れています。否認事件の第1回公判前の保釈率は12.3%。自白事件では25.9%——およそ半分です。

「認めれば出られる。認めなければ出られない」。この構造の中で、無実の人が「早く家に帰りたい」という理由だけで、やっていないことを認めてしまう。冤罪の入り口の一つが、ここにあります。

冤罪はどこで生まれるのか

過去の冤罪事件を検証すると、いくつかの共通する要因が浮かび上がります。

1. 自白偏重

「自分がやりました」という自白が取れると、本当に有罪なのかを検証する作業が後回しになりがちです。自白は「証拠の王」と呼ばれてきましたが、同時に、最も作られやすい証拠でもあります。

2. 密室での取り調べ

取り調べは、捜査官と被疑者が1対1で向き合う密室で行われます。その場で助言を受けることはできません。何時間も、何日も繰り返されるなかで、抵抗する気力を失っていく。可視化(録音・録画)は一部の事件に限られています。

3. 供述に頼った立証

物的証拠が乏しい事件では、「誰がそう言ったか」が決め手になります。傷害や暴行のように、目撃者の記憶と当事者の言い分が食い違う事件では、供述の信用性がすべてを左右します。診断書や現場の状況といった客観的な証拠が、どこまで検証されるか。ここが分かれ目になります。

それでも無罪を勝ち取った人がいる

統計は0.2%と言います。しかし、その0.2%の中に、実在する人がいます。

チエヒロが取材した男性は、ある集まりの席での出来事をきっかけに暴行の疑いをかけられました。警察と検察による複数回の取り調べ、通常より長い審理を経て、一審では有罪判決。相手側からは損害賠償請求も届いていました。

彼は控訴しました。そして二審で判決は覆り、無罪が確定しています。

なぜ彼は勝てたのか。取材で見えてきたのは、感情ではなく記録で闘ったという事実でした。日時、会話、やりとりの記録。彼は起きたことを一つずつ記録に残し、弁護士とともに相手の主張の矛盾を突いていきました。

その全過程は、本人の証言としてこちらの記事にまとめています。

無罪の確率、0.1%。権力に打ち勝った、「問題判決」を追う。

身に覚えのない疑いをかけられたら、何ができるのか

取材を通じて見えてきた、実際に効いたことを挙げます。法律の専門的な助言ではなく、当事者が実際にやったことの記録です。

  • 記録を残す——日時、場所、同席者、やりとりの内容。記憶は薄れ、書いたものは残ります
  • 早い段階で弁護士に相談する——費用が心配なら、まず法テラスという選択肢があります
  • 客観的な証拠を探す——診断書、その場の記録など。相手側の主張と矛盾する材料は、どこかに残っていることがあります
  • 取り調べで、事実でないことは認めない——一度署名した調書を後から覆すのは、きわめて困難です

99.9%の外側にあるもの

有罪率99.9%という数字は、制度の精度を示すものとして語られてきました。同時にそれは、起訴された時点で、疑いを晴らすことが極めて難しいという事実の裏返しでもあります。

その0.2%の内側で何が起きているのか。統計では見えないその部分を、チエヒロはこれからも当事者の言葉で記録していきます。

参考