10代の女性が生成AIを使う目的で、いちばん多いのは「悩み相談」だという。内閣府が2026年3月に公表した調査で、半数を超えた。人間関係のアドバイスについてAIを信頼していると答えた10代女性は、およそ6割にのぼる。
夜中にひとりで開けるのが、そこしかないのだろう。気を遣わなくていい。すぐに答えが返ってくる。強く否定されない。誰にも知られない。
その話を、福岡市の「明日カフェ」で、明日香さん(26)に向けてみた。彼女のもとには、家に帰りたくない、または帰れない10代が毎日のようにやってくる。その子たちも、おそらくAIに聞いている。であれば、それで足りるのではないか。相談相手がAIでも、いいのではないか。
答えは、即座だった。
「私は、違うと思います」

「チャピーは、答えですよね」
答えが欲しくて来ているわけではないからだ、と明日香さんは言う。
「チャピー(ChatGPT)は、答えですよね。でもみんなは、目を見て、そばにいて、人を感じに来ているのだと思います」
彼女自身、相談に対して答えを返すことは、ほとんどないという。
「私は基本的に、答えを言いません。その子が黙っていたら、隣に座っています。独り言のように話しかけたり、お茶を飲んだり、お菓子を食べようかと言ったり。そのあとで、信頼が生まれるのだと思います」
答えなら、本人がもう持っている、とも言う。
「みんな、答えはもうわかっていると思うんです。人に聞かなくても、なんとなくわかっている子が多い。それでもわざわざここまで来て何かを求めるということは、温もりを求めているのだと思います。匂いとか、話している声で、安心する」
「五感なんですよ」
これは、自分の経験から出た言葉でもある。彼女自身、オンラインでカウンセリングを受けたことがあるが、続かなかった。
「Zoomでカウンセリングを、何度か受けたことがあります。でも、何も感じないんですよね。寄り添ってくださって、1時間ほど向き合ってくださるのはわかるのですが、もういいかな、と。私はやはり、その人がそこにいる、ということが好きなんです。子どもたちも、たぶんそうなのだろうと思います」
ただし、AIを否定しているのではない。子どもたちのほうが、すでに使い分けている、というのが彼女の見立てだ。
「使っていますよ。答えがあるものは、聞くと思います。でも、何かを求めて来ている子たちは、チャピーではなく、話を聞いてもらったり、ハグをしたりを求めているのだろうな、と」
「子どもたちも、分けているのではないでしょうか。ここまではチャピー、でもこれは人に会いたい、というふうに」
AIに相談することと、人に会いに行くことは、対立していない。前半と後半なのだ。そして後半を引き受ける場所が、いまの社会にはあまりにも少ない。
引き合わせて、自分は離れる
明日香さんの人との関わり方には、ひとつの特徴がある。人と人を、フランクに引き合わせるのだ。
取材の最中にも、それは起きていた。若い男性がふらりと店に入ってくる。相談があるわけでも、用があるわけでもない。明日香さんは彼を、初対面の同行者にすぐ引き合わせた。自己紹介が始まる。しばらくすると彼は立ち上がり、その場にいた全員分の食事を作りはじめた。誰かに頼まれたわけではない。
眼の前で、つながりが広がっていく。
これは、日常的にやっていることだという。
「料理の注文が入って、そのあと手が空くじゃないですか。そうしたら、何かしようと思って。とりあえず常連さんに、みんなをお引き合わせするんです。子どもたちもそうですね。つなげまくっています(笑)」
いつからそうなのかと聞くと、答えは「もともと」だった。
「小学校の頃から、みんなを引き合わせるのが好きでした。引き合わせて、自分は離れる」
「ひとりでいる人がいたら、そこにみんなを寄せるんです。そうしたら、自分は離れる」
理由は、周りにいた友人たちにある。不登校の子、家から出られなくなっていた子、発達に特性のある子。彼女の友達には、そういう子が多かった。
「ひとりにならないでほしい、という、私の勝手な平和主義で。おせっかいなんですよ、きっと。それはずっと思っていました」
荒れていた時期にも、これだけは変わらなかったという。
「荒れている子たちはグループで離れていくけれど、そうでない子たちとも引き合わせないといけない、というような。正義感だったのかもしれません」
そして、この引き合わせには効果がある。そばで見ているパートナーのハルさん(26)が、それを言葉にしてくれた。
「明日香さんからつなげられると、大人たちも真摯に話を聞かざるを得ませんし、子どもたちも『この人なら話していいんだ』と思える。真剣な話ではなく、ただの会話ができるというのは、子どもたちにとっていい環境だと思います」
本人は、もっとあっさりしている。
「私が話せないから、やっているだけなんです」
なぜ、自分より他人のしんどさを優先してしまうのか
他人のしんどさが、自分のしんどさの原因になるからだ。
家にも学校にも居場所がなく、カウンセリングの先生のところに通っていた時期がある。それでも、この特徴は止まらなかった。理由を聞くと、返ってきたのは自己犠牲の話ではなかった。
「見てしまいます。他の人がしんどいことが、自分のしんどさの原因になるんです。自分が楽になりたいからこそ、やっているところはあります。だから、ひとりで苦しんでいる人を見ると、もっと苦しくなっていく」
「自分の苦しみだけならいいのですが、そこに乗っかってくる苦しみが、もうしんどいので。動かないといけないんです」
他人のためではない。自分が耐えられないから動く。彼女はそれを隠さない。
「エゴだらけです。エゴの延長線上のことだと思います」
自分を犠牲にして続けている、という話ではないのだ。好きでやっている。だから、続く。
「フェア」を貫く。
その理由は、彼女が見てきたものにある。
「生まれ持った環境や、体のつくり。目が悪くて眼鏡をかけている。そういう差でからかわれる人を、たくさん見てきました。その差でいじめられたり泣いたりする人を見るのが、いちばん嫌なんです」
おせっかいの正体は、「依存先を増やす」こと
ここまでの話は、性格の話に聞こえるかもしれない。だが、彼女が人を引き合わせ続ける理由には、はっきりした設計がある。
支援の現場では、特定の支援者に強く依存する人が出てくる。明日香さんにも、当然それは起きる。
「依存されると思いますし、私も依存していると思います」
そこまでは、よくある話だ。彼女が違うのは、次の一言だった。
「だからこそ、1対1にしたくないんです。私が死んでしまったら、その子も死を選んでしまうかもしれないから」
「それだったら、依存先がいろいろあればいい。依存先を増やすことも、私の役割のひとつだと思っています。その中のひとりでありたい。依存はされますけれど、その依存先が、ひとりではないようにしたいんです」
引き合わせて、自分は離れる。小学生の頃からの特徴に見えたものは、支援の設計そのものだった。自分ひとりが抱えれば、その関係は彼女が倒れた瞬間に切れてしまう。だから、関係の本数を増やす。自分は、そのうちの1本でいい。
これは店の中だけの話ではない。行政、警察、法律、住まい。必要になれば、彼女はためらわずに外へ助けを求めに行く。
「いろいろなところに、助けを求めに行きます」
そしておそらく、AIが代われないのは「答え」のほうではない。引き合わせること、つまり関係の本数を増やすことのほうだ。 AIは、隣に座ってはくれるかもしれない。けれど、誰かを紹介してはくれない。
支える側にまわった人
依存先を増やす、という方針は、支援を受ける側だけの話ではなかった。彼女自身の依存先も、増えていった。
そのひとりが、パートナーのハルさんだ。みんなからそう呼ばれ、慕われている。九州大学の大学院で建築を学び、フィリピンのスラムやボリビアの貧困について研究していた。卒業後は1年ほど勤め、2026年6月に退職。
出会いは1年前。高校の友人とフリーマーケットを主催しようとしていたとき、明日カフェのテレビ取材をたまたま目にした。団子の販売で出店してもらおうと声をかけたのが、最初だった。
「僕も、明日香さんとは方向性は違いますが、社会課題や環境問題といった、わかりやすいところに関心があって、自分にできることはしようと思っていました。そんなときに、自分の人生のすべてをそこに捧げるような、利他的な人に出会って。ここまで利他的に生きている人を、見たことがないなと思いました」
彼は、自分の立ち位置を正確に把握している。
「泣いている子への対応は、僕には知識がありませんし、まだできません。そこは明日香さんに任せて、その間に僕は、子どもたちとなら向き合えるな、という気持ちでいます」
前線に出るより、後ろから支えるほうが向いている、と。
そしてハルさんは、自分のような人が現れること自体を、次の店で起こしたいと考えている。
「純粋に応援したくて来てくださる方が、ついてきてくれるんじゃないかなと思っていて。そういうサポーターの中から、僕のように子どもに直接関わってくれる人が、常連さんの中から出てきたりとか。それが当たり前になればいいなと思っています」
客が常連になり、常連がサポーターになり、サポーターの何人かが支え手になる。彼が描いているのは、その循環だ。
「せめて、明日香さんだけは支えないと」
ハルさんが店に通うようになって、見えてきたものがある。
「毎日ここにいると、いろいろな出来事に巻き込まれてしまうんですよ、必然的に」と明日香さんは言う。キャパシティは超えていないのかと聞いた。
「超えています。キャパオーバーしているものを、毎日やっています」
それでも続いているのは、周りがいるからだ。そして、なぜ周りが集まってくるのかを、彼女自身がこう説明した。
「それをわかって、みんな来てくれるんですよ、きっと。潰れそうだと思ってくれて」
ハルさんの言葉は、はっきりしていた。
「この現代社会において、明日香さんがいなくなることは、社会にとって相当な不利益だと思うんです。だから僕は、せめて明日香さんだけは、しっかり支えないといけない、と思っています」
明日香さんも、自分ひとりでは無理だと認めている。
「すぐに連絡します。『今日も人が来ます』と。ハルさんはずっと隣に座っていてくれて、私が黙っていても、会話をしてくれるんです」
「私ひとりだったら、きっと続けていませんでした」
本人が全力でやっているから、周りがついてくる。周りがいるから、本人が続けられる。引き合わせて自分は離れる人が、いつのまにか自分自身の依存先も増やしていた。

数カ月後、2人で新しい店を始める
※新店舗 居場所 ひのま/食堂 日ノ間(福岡市博多区銀天町2丁目2-35 アヴァンティ銀天町1階)
明日カフェは、まもなく区切りを迎える。数カ月後を目処に、明日香さんとハルさんの2人で、新しい店を始める。
ハルさんには、明日香さんと出会う前から温めていた構想があった。
「出会う前から、地域の公民館のような場所を作りたいと思っていたんです。僕が作る飲食店には、おじいちゃん、おばあちゃん、サラリーマン、子育て中のお母さん、小学生、幼稚園の子、みんなが来る。そこでいろいろな出会いが生まれる。そんなことを勝手に思い描いていました。それを実現している人が、現実にいたんです」
2人で老舗の和菓子屋を訪ねたとき、それは像を結んだ。創業50年。昔は小学生だった客が、大人になって自分の子どもを連れて、また訪ねてくる。
「まさにこれだね、やりたいのは、と話しました。そういう居場所も、わざわざ名前に掲げたくはないんです。それが当たり前であるべきだと思うので。ただ今は、こういう社会ですから、警固の子たちも『居場所』と書いてあるほうが来やすい。だから掲げておいたほうがいい、というだけで」
ハルさんの本来の目標は、ゲストハウスだ。旅先の安宿で旅人と交わす会話が好きで、「一生旅を続けるわけにはいかない」と考えたとき、ゲストハウスに入ってしまえば毎日旅人が来る、と気づいた。理想の比率は、8割が地元客、2割が旅人。
「それが逆転してしまうと、ただの観光地になってしまいますから」
明日香さんが新しい店に望むことは、もっとシンプルだった。
「いつでも、誰でも、駆け込んで来られる場所にしたいです。そういう場所が欲しかったので」
「お腹が減ったとか、悩みがあるとか。高齢の方から子どもたちまで。私の好きな、つなげることを続けたいと思っているので、多世代で交流して、ひとりで抱えなくても、結局みんないるから大丈夫、と思える。そんな安心できる場所になれたら」
若者を守りたい。そのためには、「地域の大人が必要不可欠」と、彼女は言う。
「それに付随して、孤立している方々、高齢の方も、おひとりの方も、ひとり親の方も。そういう方が社会につながれたら、お互いにいいですよね、という。これも理想なのですが」
好きでやっている。だから、続く
話の終わりに、自分の性格をどう思うか聞いた。
「これでよかったな、と自分の性格をいつも思います」
これだけ多くの人と関われば、合わない相手も出てくるはずだ。人の好き嫌いはあるのかと聞くと、「ないですね」と即答したあと、こう続いた。
「嫌いな人ができそうになったら、私、無意識に遠ざけているんじゃないでしょうか。だから、嫌いじゃないんです。嫌いを作らないために、離れるので」
「離れたら、好きになります。そういうものだと思っています」
引き合わせて、自分は離れる。距離の取り方は、ここでも同じだった。
やりたいことはあるのか、と聞くと、ないという。
「やりたいことが、そもそもないんです。いえ、やりたいことがそれなのだと思います。子どもの話を聞くこと。環境を整えること」
「そのときのために、エネルギーを取っているんです。動かないといけないときのために。本当に、子どものことだけが大事で」
自己犠牲ではなく、エゴ。義務ではなく、好き。だから周りも安心して支えられるし、だから続いていく。
人と人を引き合わせて、自分は離れる。その特徴が、いま福岡のまんなかで、誰かの依存先を増やし続けている。そして増えた依存先の何本かは、いつのまにか、彼女自身を支える線になっていた。
いま、誰かに会いたくなったら
明日香さんは、福岡市天神の警固公園にある「安心安全センター」を月に2回利用し、そこで若者に会っている。そこで会った子から、あとで電話がかかってくることもあるという。
「おせっかい」を源泉に、子どもたちを支援する明日香さん。そんな彼女を周りがサポートする循環が巡っている。
【新しい居場所のお店】
居場所 ひのま/食堂 日ノ間
福岡市博多区銀天町2丁目2-35 アヴァンティ銀天町1階
取材・執筆:仲西俊光(チエヒロ編集長)/取材場所:福岡市「明日カフェ」/取材日:2026年9月

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